宇宙一周旅行が始まって、既に5本、もう5本、未だ5本...されど5本。
5本といっても我々クルーにとって、思惑はひとそれぞれだと思うけど、ドラムテックという持ち場の役割責任からすると、この5本は既に最終調整になる。明確な基準はないが、宇宙一周旅行の公演数からすると、5本でも多いくらいだろう。
リハーサル中は、その期間の長短に関わらず、とにかくドラマーを見る。聴くことは言うまでもないが、とにかく毎日プレイを見て体の動きを観察する。どういうストライドだったりステップが踏まれているか。正確なスティックの軌道でスイートスポットをヒットしているときの音抜けを覚えておくことで、ミスショットなのか、ちょっと力が入りすぎているのか、チューニングの問題なのかなど、求められた回答をドラマーやエンジニアに戻していく。
ドラムセット自体は、考えようによってはある意味、工業製品としていたってシンプルな構造なので、そのドラムキットやドラムヘッドのブランドにおける周波数特性からチューニングにより最大音量を引き出せば、あとは叩き手によって無限に音が変わっていく。簡単に言ってしまえばここまでがベーシックだ。勿論シンバルのチョイスも含まれるが、これはゲネプロに間に合ったので、そのあとからがこの5本のはなし。
初日には、別のドラム・スローン(椅子)が用意できた。吉田さんはスローンのセッティングが高い。メーカーのカタログ・スペックぎりぎりの高さだ。しかも結構深く座るタイプ。深く座る分、太ももの付け根が座の部分にかかる面積が大きい。それによってペダルを踏み込む際、太ももが綺麗に落ちないので、若干のパワーロスになる。それもあって思いっきり踏み込んだときは、スローンの背面方向の脚部が時折浮き上がっていた。
今回のキットは吉田さんのLUDWIG'70 VISTALITE。ハードウェアのチョイスは現行品で任されたので、PEARLのモノをセレクト。そこでリハーサル終了間際、PEARLのスタッフに前述のスローンの件を相談。脚部は重量があり最大限高くしても安定感のあるハイエンド・モデルのモノを。逆に座の部分は、ハイエンド・モデルより硬く、ひとまわり小ぶりな最も安価なモデルを組み合わせた特型品を特別に福岡公演に送ってもらった。
これによって、踏み込んだときのパワーロスが無くなったせいか、キック(BASS DRUM)のローエンドが増し、ハウスの宗さんやモニターの拓ちゃん、システムの加藤さんからもなかなかの評価を得ることができた。何せキック(BASS DRUM)はサウンドチェックのトップバッター。まずここが決まらないと何も決まらない。何よりもこんな小さなことでこんなに音が変わることに、吉田さん本人が驚いていた。
でもドラムテックから言わせると、初日に新しいドラム・スローンを試してくれることのほうがすごいと思うけどね。普通はそんな話を持ち出されるだけで、結構ナーバスになったり、ツアー中は試すことも躊躇う人が多いと思う。でもそんなことは全くに意に介さないというか、そのせいでサウンドメイキングにおける結果が後手にまわることのほうを恐れる吉田佳史に賭けて良かった。
そして仙台公演では吉田さん自身による修正で、BASS DRUMをほぼ正面にセットアップ。それによりストライドが少し変わることで腕の軌道にも変化があり、SNARE DRUMの抜けが更に良くなる。新潟公演ではBASS DRUMは真正面になり、Vo.の立ち位置でのBASS DRUMの体感レベルを増すことができた。
されど5本...ツアーのサウンド・メイキングにおいて、ドラムにはのんびり取り組む猶予はない。いち早く結果を出し、高いアベレージを出し続ける。これが吉田佳史と僕の宇宙一周旅行のルーティーンだ。
それではまた
加藤俊一郎